HACCP関連記事2020年11月18日

衛生管理と衛生管理計画 :その9・・・一般衛生管理:生き物を食べ物にする処理方法(お肉編)

 

 またまた、ブログの掲載期間が空いてしまいました。サボっていたわけではないのですが・・・さて、気を取り直して今回も生き物を食べ物にする処理法と題打って・・・お肉編です。

 牛、豚、鶏、羊は家畜として人が飼育して、屠殺して、お肉となる動物たちです。つまり人が管理している動物たちをお肉にしています。それに対して、鹿、鴨や北海道にはなじみが薄いイノシシ等は基本的には野生の動物で「ジビエ」と呼ばれる生き物ですが、最近ではその中でも鹿や鴨は人が飼育しているケースも出てきているようです。

 さて、動物をお肉にするためには、残酷なことですが動物を殺さなければなりません。牛、豚の家畜は「屠殺場」で、鶏は食鳥処理施設(飼育された鴨や七面鳥も)で、そしてジビエは自然の中で射殺されています。ここで大きく異なるのは殺す場所。管理された施設か、管理されていない自然かです。当然ながら殺されてからの扱いも違ってくるわけで、家畜は殺されてからお肉になるまではオートメーションの流れ作業、ジビエは草や泥まみれの自然の中に倒れ、車で処理施設まで運搬されるというのが普通です。実はこの段階で、お肉の安全性に差が表れます。すなわち、屠体処理で一番大切な体表の皮の汚染度が変わってくるということです。それはその次の段階の作業に大きな影響を与えます。

 次の段階はお肉にする工程ですが、動物を肉にするためには皮を剥ぐ、又は毛をむしるという作業を行わないとできません。この時に、先ほどの殺す場所の影響が出てきます。当然ながら、解体作業をする人たちは細心の注意を払って作業をしていますが、潜在的な危険性は無視できません。また、次に説明する大腸に関連する肛門付近の皮や毛は、肉への汚染に一番注意を払わなければならない部位です。更に、内臓を取り出さないといけないわけで、この時の作業も家畜とジビエで変わってきます。この内臓、取り出す際に肉を汚染させないようにするのがポイントとなりますが、それを分からないハンターが内臓の取り出しを行っているケースがあるのがジビエです。その中でも一番要注意な臓器は大腸で、肛門付近の大腸に残っていた糞便からの汚染を防ぐのがポイントです。動物の腸内には大腸菌を始め、その動物特有の食中毒菌がいる場合があります。それを理解して作業しているか否かは、お肉の潜在的な危険性に大きく左右します。また、鶏も動物も家畜の場合は内臓を見て獣医さんが病気の有無を確認していますが、ジビエには獣医さんは関与してなく、その判断もハンターということになります。

 ここから先は鳥と動物では大きく異なってきます。鳥は内臓を取り出されてからは屠体を冷やされ、その後、もも、むね等の部位に分割されていきます。この作業は一環して食鳥処理施設で行われます。つまり鳥は、屠殺から肉にするまで全て食鳥処理施設で行われるのに対して、動物は内臓を取り出されてから先の作業は保健所から許可を受けた「食肉処理業者」が行うことになります。それはジビエも同じことです。そして、実は今までの作業で、各畜種の処理の管轄省庁は、屠殺場、食鳥処理場、食肉処理場、は「厚生労働省(保健所)」ということになりますが、ジビエの剥皮と内臓除去までは管轄省庁は厚生労働省ではないのです。つまり食品衛生法に関係のない作業となります。ジビエは皮が剥がれて内臓を除去してから、すなわち枝肉になった時点から、食品衛生法の管理下に置かれる訳です。それゆえ、ジビエの安全性はハンターの知識と腕の良し悪しとなっているのが現状かと思います。

 以上を踏まえて、お肉の安全性が決められる訳ですが、決してジビエが危険なお肉であると言いたい訳ではなく、それぞれのお肉の危険性を理解して調理・加工をする必要があることを認識して頂きたいのです。「鮮度がいい」から生や生に近い形で食べてもいいというのは誤った認識です。現時点で生で食べられるお肉は、食品衛生法で規定された加工方法で処理されたお肉だけで、その考え方は、「枝肉から切り出された動物の筋肉の中には病原菌は存在せず、その表面に存在する危険性があるので、肉の塊の表面から1センチ以上加熱されたお肉の内部であれば生で食べても良い」というものです。人が食べ物にしている動物の筋肉には、生きているうちは病原菌を含め細菌は存在していません。ですから、塊の大きなお肉ほど表面を除けば内部は無菌状態といえます。それゆえ、ブロック肉から切り出された牛肉のステーキは、「レア」という焼き加減が許される訳です。一時話題になった成形肉でのステーキやひき肉を使ったハンバーグは、細菌が内部にまで及ぶ為、「レア」はすなわち「生焼け」となり非常に危険な食べ物になるのです。また、鶏肉はお肉となる畜種の中では一番屠体が小さく、1羽1羽手作業で解体するのであれば汚染を防ぐことはできるかと思いますが、流れ作業で処理をする食鳥肉処理施設で内臓の影響や糞便の影響を「0」にして処理するのは不可能で、それゆえ鶏肉の生食やたたきは非常にリスクが高く、ましてやその内臓を生焼けで食べるのは危険極まりない調理だと言えます。と言いながら、「鶏わさ」や「鶏のたたき」が居酒屋のメニューからなくならないのは、内地(北海度弁で本州)の一部の地方でそれが食文化としてあるからですが、そもそもそれは1羽1羽手作業で解体して食べていた頃の文化であり、先ほども説明したように処理方法が異なる現代で「文化」で片づけていいものか、と私としては疑問が残る食べ物です。HACCPを制度化して、食べ物のリスク管理を科学的根拠に基づき行おうとしている割には、「食文化」という風俗的な考え方に縛られて食べることを禁止しない、もしくは牛肉の生食のように安全な処理方法を規定しないのは、どうしたものか、と思います。

 以上、家畜でもジビエでも、お肉はリスクを考えると加熱をして食べるのが一番安全といえます。従来生食が大好きで魚を生で食べてきた日本人とはいえ、お肉のリスクは魚と異なり、鮮度の良し悪しではない、ということを理解して、美味しく安全に調理・加工することを心がけてほしいものです。

 回転ずしの、「炙り牛肉の寿司」・・・炙るからと言って、本当に安全ですか?

 

 

 

この記事を書いた人:小林樹夫

所属:代表取締役 担当:皆の社長(笑)

小樽の漁師町の生まれ
人生の前半を小樽、函館で過ごし、酸いも甘いも色々経験(笑)後半の人生は、死ぬまで札幌で修行の予定。
さていよいよ50代最後の1年、来年は折り返しの年です。頑固でありながらも、いつまでも柔軟な感性を失わない、しなやかな社長=親父=おやじを目指してます❗