社長ブログ2019年11月24日

行政と現場の狭間で

 先週、道東方面へ出張に行ってきました。エゾシカの処理施設での仕事がメインでしたが、そのエゾシカ処理施設を取り巻く話題が、先日北海道新聞に掲載されていました。

 

EPSON MFP image

 数が増えすぎて、人間の生活に様々な被害が増え、「害獣」として烙印を押されたエゾシカの駆除から始まった狩猟ですが、いつしかその駆除の対象のエゾシカの有効活用を考え、その安全性とブランド化を図るために、「エゾシカ認証」なる制度を作ったものの、それがなかなか認知されなく認証取得の施設が増えないという内容でした。「エゾシカ認証施設」になるためには、以下のハードルがあります。

   ①北海道が定めた「エゾシカ処理マニュアル」を遵守すること

      http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/est/yk/ezosikamanualkaitei.htm

   ②北海道HACCPの評価事業において「A」の評価を受けること

   ③商品のトレーサビリティーができていること

この3つのハードルをクリアしないと、認証施設にはなれないのです。そして、 実は その中で一番ハードルが高いのが①のマニュアルの遵守なのではないかと思います。元々エゾシカは「害獣」駆除の対象でしたから、食べることを優先して狩猟をしていなく、血抜きが悪かったり、仕留めてからの処理が悪かったため、「シカ肉は固くて生臭くて美味しくない」というレッテルが張られ続けてきました。でも、そのうち美味しさを追求するハンターで現れ、今では「軟らかくて美味しくて赤身でヘルシーなお肉」という評価を得るまでになってきているのですが、そのための方法が、実は①のマニュアルから外れてしまう部分があるのです。新聞記事にも書かれていますが、「細菌汚染につながる野外での内臓取り出しの禁止」、これが実はシカ肉の品質の低下を招くことにもなりかねないのです。勿論、仕留めてからの時間の問題をクリアできれば、内臓を取り出さないで処理施設に持ち込んでも、美味しいシカ肉を作ることができるそうです。しかしながら、処理施設までの距離や、一度に2頭、3頭と狙うハンターにとっては、どうしても持ち込みまでの時間がかかり、美味しさを突き詰めると内臓を取り出して処理施設に持ち込むこととなるようです。新聞記事に書かれている設備費用の課題もあるかと思いますが、それ以前の、「内臓の取り出しをどこで行うか?」の課題が認証普及の進まない最大の理由ではないか、と私は思います。魚だって、漁獲後の〆方ひとつで値段が変わるほどです。食べるために「殺して」からの処理の仕方が、食材としての品質の最大の決め手であれば、美味しくて売れるシカ肉を作りたければ、どう扱うかは自ずと決まってくるのではないかと思います。

 野生動物を食用にするには、様々なリスクが存在します。家畜のように管理された動物ではないのですから、どんな病気を持っているかわかりませんし、何より大きく違うのは、食べるために「殺す」作業が、管理された環境で行われるか、その瞬間、瞬間で異なる環境で行われるか、ではないかと思うのです。①のマニュアルを見る限り、そこに書かれている処理方法は、家畜の屠殺を参考に作られたもので、それゆえ山や草原で「殺される」野生動物に適用することに無理が生じているのではないかと思うのです。安全性と美味しさを成立させるためには、ルールを決める行政の立場と、実際に狩猟を行うハンターや受け入れて処理する処理施設の言い分があり、お互いの主張を尊重しあいながら折り合いをつけていかないと、今回の新聞記事のような事態になるのでは、と、皮を剥がれたもも肉から湯気を出している「シカのしかばね」を目の前にしながら感じた道東出張でした。

 更に、ブランド化といいながら、どれほど「エゾシカ認証」のことを一般の人たちが認知しているでしょうか?今回のブログのタイトルの写真が「エゾシカ認証」のマークです。でも、それと同じことが、来年6月1日から始まる「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の制度化」にも言えるのではないかと感じます。先日スマホを見ていたら、飲食店に対するHACCPの制度化のアンケート調査の結果を報告している記事が載っていました。サンプル数が300件程度の調査ですので、あまりあてになる結果ではないことをご理解いただきつつも、約半数の回答でHACCPの制度化を知らない、HACCPの言葉すら聞いたことがない、というものでした。これが 改正食品衛生法施行約半年前の 現実です。弊社の営業の日々の報告を聞いても同じような雰囲気を感じています。先ずは、制度を認知させること。そして、現場が理解できる言葉で説明してくれること、そして現場で何ができて何ができないかを知ること、そのできないことをどうしたらできるか歩み寄ること、が大事なのでは?と、行政と現場の狭間にいる弊社の業務の 様々な場面で 、日々感じるのでした。

この記事を書いた人:小林樹夫

所属:代表取締役 担当:皆の社長(笑)

小樽の漁師町の生まれ
人生の前半を小樽、函館で過ごし、酸いも甘いも色々経験(笑)後半の人生は、死ぬまで札幌で修行の予定。
さていよいよ50代最後の1年、来年は折り返しの年です。頑固でありながらも、いつまでも柔軟な感性を失わない、しなやかな社長=親父=おやじを目指してます❗